『摩天楼の首つり死体と、僕が書く長い長い小説』7月22日(木)
仕事でアメリカに来ている。
フードコートのようなところに、取引先のメーカーの人たちがいるのだが、なぜかみな、人種ごとにかたまっている。
僕は会社の同僚のKさんと一緒にアジア人だらけのテーブルにいる。
インド系の取引先の人はインド系のテーブル、スウェーデンやドイツの人たちは白人のテーブルに。
人種間でいがみ合ったりしている雰囲気はなく、テーブルを越えて(人種を越えて)親しく会話を交わしていたりもするのだが、距離的には近づかず、交わらない。
突然、黒人が集まるテーブルにいた黒人の少年が窓の外を指さして叫ぶ。
「誰かが首を吊っている!」
見ると、高層ビルが立ち並ぶ中、そのビルたちと背を並べるほどの高い木がそびえている。
その木の先の枝にロープが垂れており、その先端には黒人らしい男のシルエットがうっすら確認できた。
彼が首を吊ってしまったこと自体は痛ましいことなのに、そこまでどうやって登ったのだろう?そこまで自力で登ったのだとしたらものすごい努力だな、などと彼を讃えたいような気持にもなった。
するとその瞬間、彼が今までの人生をどのように送ってきたのかという全ての情報が赤の他人の僕の脳内を「走馬灯のように」駆け抜けていった。
僕は、彼の人生について書かなければならないと思った。
その場で紙を取り出すと、僕はペンを走らせた。
それは、とても長い長い小説の始まりだった。
僕のペンは走り続けた。
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