『手首のイボは漢方薬で~優しい担任』7月12日(月)
左右の手首の内側に、奇妙なイボが生えてきている。
5㎜ほどの太さで、1㎝ちょっとの長さ。
ムーミンに出てくるニョロニョロのような。見方によってはちょっと卑猥な形である。
それが左右にある。
少しかゆい。
引っ張ったら取れるかも、とも思ったが、しっかりくっついており、切ったりするのも出血が怖いので、おいそれとは出来ない。
いまは手首の内側にしかないからそこまで目立たないが、手の指など、他の場所もむずむずするので、もっと目立つ場所にもでき始めるかもしれない。
「もしもこのまま、体中にできたら。」
そう考えると居ても立っても居られない恐怖に包まれてしまう。
実家に帰る。
母親は漢方薬局を営んでいるので、相談をする。
すると母は大鍋に大量の生薬を放り込み、グツグツと煮ていく。
すっかり茶色くなった湯の中に手を入れろと言う。
半信半疑で両手を入れてしばらくすると、あのしっかりくっついていたイボが綺麗になくなっている。
「以前もこんなことがあって同じように治したよね」と母が言う。
記憶にないと言うと、「ほら、3歳くらいだったかな」
母はよく、僕が覚えていないような時期のことを持ち出して来ては、覚えていないと言うと怪訝そうな顔をするのだ。
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高校で、参考書を見ながら回答して良いというテストがある。
書店で参考書を買い求めてあったのだが、テスト用紙の問題とは全然違う内容であることが分かった。
きっとそそっかしい僕のことだから、間違って買ってしまったのだ。その証拠に、他の生徒たちはスラスラと回答欄を埋めているようだ。
結局何も書けないで提出する。
提出するとき、体育専門の担任が、まっすぐな目で
「お前、どうしたんだ?何かあったのか?」
と責めるでもなく、心配そうに聞いてくる。
だが僕は「いえ、特に」としか言えない。
これまでの人生で、助けたいと思ってくれる優しい人々に頼ることもせず、いかに独りよがりで生きてきたのだろう、と思い当たって、胸が少し苦しくなる。
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