『スイカのような頭~姉のがん』10月11日(月)
剣道の合宿に参加している。
高校の頃に在籍していた高校の夏の合宿には、大学生などのOB・OGらが参加して指導にあたっているのだが、僕もそのようなOGの一人として参加しているのだった。
みんなで一緒に素振りをしている。
「いち!に!」
という掛け声で揃って竹刀を振る中、1人の男子生徒だけが不真面目そうに、ニヤニヤ笑いながらタイミングをズラしたり、全く違うことをやっていたりする。
なんども注意するのだが、あまりにもひどい態度に僕は自分を抑えきれなくなり、ついつい最低の行動に出てしまう。
衝動的にニヤついた男子生徒の頭に竹刀を振り下ろしたのだ。
その瞬間既に後悔していたが、竹刀は彼の頭に落とされた後である。
その頭は予想だにしなかった、「グシャ」という音を発していた。
そこまで強く打ちつけたつもりはなかったのに、彼の頭はスイカのように四方に亀裂が入り、頭頂部は凹み、また血が噴き出している。
もしかすると脳みそも漏れているかもしれない。
彼はうずくまり、うめき声を出している。これはもう、助からないかもしれない。
周りも騒然となっている。
とっさに、そこにあった備え付けの電話で119番を押そうとするのだが、焦りすぎて押すたびに違う番号になってしまう。
1人の男の子の人生を終わらせてしまった(たぶん)。そして僕自身の人生もこれで終わったも同然だ。
後悔してももう後には戻れない…。
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なんとなくお腹を触っていると、肝臓のあたりにしこりを感じる。
しかもそのしこりを触るとイヤな感じで痛むのだ。
もしかするとこれは癌かもしれない。
大きな病院へ行き、診断を受けることにする。
病院の診察室へ行くと、そこには福岡にいる姉も同席している。
僕自身の診察に来たつもりだったのに、どうやらその日は姉も患者として来ていたようだ。
お医者さんは、姉の病状について、
「えっと、肺に小さな腫瘍がたくさんあります。ま、500個くらいですね」
と、割とお気楽な感じで伝えてくる。
姉はさほど重大なこととは思っていない様子であり、表情からは心の動きが全く見えない。
僕は、姉の500個の腫瘍のことを聞いたばかりなので、僕自身の肝臓の痛みに関しては一旦保留しておこう、と思う。
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