『女装した僕はバスに乗る』11月1日(月)
明け方の街を、軽自動車で走っている。
人も少なく、ひんやりした空気が気持ち良い。
路面には昨夜の雨の気配が漂っている。
ふとルームミラーを見ると、髪をおかっぱにして化粧した僕の姿が見える。
黒縁のメガネをかけている。
女装のつもりなのだろうが、なんて出来の悪い女装なんだろう。
単純に、美しくない。
僕の心の底に女装趣味があったんだなあ、と思ったが、もしそうなら僕の望んでいる女装はこんな中途半端なものではなくて、もっと美人に出来上がっていなければいけないのだ、と自分自身へ怒りのようなものを感じる。
黒縁のメガネには度が入っていないようだ。視力回復の手術をしたからメガネはもう必要ないのだ。
試しにメガネを外しても視力は変わらなかった。
走っていた道はやがて行き止まりになる。
仕方なくUターンをしている間に、車はいつの間にか大きな観光バスになっている。
急に車体が大きくなってしまったので感覚をつかむのに時間がかかる。
しかもこんな大型の車を運転する免許は持っていない。
警察に見とがめられたら大変なことになるぞ、と思う。
こんな早朝に、一目で女装とわかる運転手がバスを運転していては怪しさ満点である。
次の交差点に、警察がいた。
交通誘導をしているが、僕の運転ぶりに不信を持ってはいないようだ。
右折すると広い一本道で、昇りはじめた朝日に出迎えられたようにバスは颯爽と走り出す。
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