日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー329) Amazon
イザベラ・バードというイギリス生まれの女性旅行家が143年前に日本の東北地方や北海道を旅した記録『日本奥地紀行』をすこしずつ読んでいます。
バードの旅行したルートをGoogleMapにプロットしている方がいました。
良かったら見てみてください。↓
イザベラ・バード日本奥地紀行 – Google マイマップ
この章では(他の章でもそうですが)当時の日本人の勤勉さに心を打たれました。あとはバードと伊藤の関係性がわかるような内容が含まれていると面白いですね。
第17信 市野野にて
1週間以上を過ごした新潟を後に、バードたちは東北地方を北上していきます。
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黒川村という場所では、米飯がなく美味しいキュウリをごちそうになったと書かれていました。
この地方ほどきゅうりを多く食べるところを見たことがない。子どもたちは一日中きゅうりを齧っており、母の背に負われている赤ん坊でさえも、がつがつとしゃぶっている。
本書:P202
赤ん坊まできゅうりをしゃぶっているというのがなんだか微笑ましいように思えました。
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次の宿泊地、沼という部落は生活が苦しく、「あるみじめな宿」へ行くと「すみませんが、こんなりっぱなお客さんをお泊めすることはできません(P204)」と言われるほどでした。(結局泊まったようですが。)
沼では、24軒の家があるのですが、人口はなんと307人いたとのこと。どのくらい大きな家なのかわからないですが、単純計算で12~13人が一つの家に住んでいるということになります。この当時、戸数から人口を推定するには戸数を5倍するのが普通のやり方だったと書いてありましたので、普通の3倍近くの人達が一軒に住んでいたのですね。これによって一層貧しくなってしまっていたのでしょうか。
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沼を出ると、すぐに山形県に入ります。
黒沢という場所で夕方になり宿泊しようとしたものの、宿屋は無く、先を目指さざるを得なくなります。
農民たちは暗くなってから外に出ることを好まない。幽霊や、あらゆる種類の魔物をこわがらせるのである。だから、夕方おそくなって彼らを出発させようとするのは、困難なことであった。
本書:P206
この農民たちは、馬の世話をしたりするために雇っている人たちのことです。
143年前は明治時代といえども、とくにこのような山奥の農民たちは、古くからの世界観の中で生きている人が多かったのだなあ、と興味深く思いました。とはいえ、現在の我々の中にも、こうした科学では推し量れない見えない世界みたいなものへの感受性とか怖れみたいなものって完全には無くなっていないよなあ、とも思います。先人たちの営みとはかけ離れた生活をして消えゆくものも多いですが、どこかで脈々とつながるものもあるような気がして。
女はだれでも木綿のズボンしかはいていなかった。一人の女が泥酔してよろよろと歩いていた。伊藤は石の上に腰を下ろし、両手で顔をかくしていた。気分でも悪いのかとたずねると、彼はとても悲しげな声で答えた。「どうしたらよいのか分かりません。あんなものを見られて、私はとても恥ずかしいのです!」この少年はまだ十八歳なのに。私は彼がかわいそうになった。
本書:P207
優秀なガイドであり、通訳でもある伊藤も18歳だったのか、と改めて思い出しました。でもたしかに都会っ子の伊藤が日本の恥部のような部分を外国人に見られる、というのはとても恥ずかしいような気持になる、というのはよくわかりますね…。
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結局、黒沢峠という峠を越えたところにある市野野という場所で「頼りない一軒の農家」宿を取ります。 これまでにも持病の背中の痛みが出ている描写があったのですが、
私が背骨の痛みで苦しみ出すと、伊藤はいつも慌てふためき、私が死ぬのではないかと心配した、と後で私が良くなったときに言う。しかし彼は、心配になるとひどく不愛想な態度をとる。それがとても不愉快である。
本書:P208
こういう、バードと伊藤の関係性が見えるところが面白いです。さきほどあったように伊藤は有能なところもありながらまだ18歳で、不器用なところもたくさんあったのだな、と思わされます。
決して裕福ではないこの村では、男も女も皆一生懸命労働しています。
実に「額に汗して」(『旧約聖書』創世記)彼らは家族のためにパンを得ようとまじめに人生を生きているのである。彼らは苦しみ、烈しい労働をしているけれども、まったく独立独歩の人間である。私はこのふしぎな地方で、一人も乞食に出会ったことはない。
本書:P210
こういった姿は、多かれ少なかれ、日本全国同じようだったのでしょう。そう考えると、僕たちの先祖の勤勉さに支えられて今の日本があるのですから、本当に頭が下がります。
乞食=今だとホームレスでしょうか。やっぱりホームレスになるにも社会全体が豊かでないと無理ですよね。ホームレスが生きられるほど豊かになった現代社会、と言うと皮肉ぽいですが。
バードたちの旅はまだまだ続きます。
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