『教科書には載っていない!戦前の日本』武田友弘 著 彩図社

本の紹介

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(僕は2021年に出版されたものを読んだのですが、2008年にも同じタイトルで出版されているみたいです。)

戦前の日本、と言うと、たいていの人は戦争につきすすんだ軍国主義社会、だとか、暗黒時代といったイメージを持ちがちだと思いますが(僕もなんとなくそんなイメージをついつい持ってしまいます)、でも実際にはそんなことばかりでもなくて、今の日本人と同じように泣いたり笑ったり、何かを楽しんだり苦労したりして「当たり前の日常」を生きていたのだなあ、と気づかせてくれるのが本書です。

当時の人々がどのような暮らしを送っていたのかというと、その具体的な情報は驚くほど少ない。果たして、本当に暗黒の時代だったのか。当時の人々には何の楽しみもなかったのか。そこを解き明かすのが、本書の趣旨である。

本書:p3

戦前と戦後の断絶感

僕にとって、第二次大戦というのが一つの大きな壁のようなもので、それ以前の日本と今の日本を大きく隔てているような感覚がありました。実質的にGHQが作った日本国憲法や戦後教育の影響、また戦後の日本人自身が戦争や戦争以前のことを忘れようとした、ということがあるのかもしれません。僕がただ不勉強なだけかもしれませんが、実際には見える形でも見えない形でもいろいろな影響を受けているだろう戦前の日本人(祖父母やそれ以前の僕たちに血を分けてくれた先祖も含め)と断絶した今を生きている、といった感覚をいつも持っていました。この本は、そんな第二次大戦という見えない大きな壁にのぞき窓を開けてくれて、それ以前の日本へのタイプスリップの手助けをしてくれます。

本書は四章構成で、

第一章 不思議の国「戦前の日本」

第二章 本当は凄い!戦前の日本

第三章 古くて新しい戦前の暮らし

第四章 熱く瞑想する戦前の日本

となっています。全体では34のトピックで戦前の日本を少しずつ垣間見ることが出来ます。

国会議員にヤクザの親分

34もあるうちの一つのエピソードとして、いまでは考えられないことですが、戦前の日本では何人ものヤクザの大親分が国会議員をやっていたそうです。

吉田磯吉(いそきち)という九州を地盤とするヤクザの大親分は、大正4年(1915年)から昭和7年(1932年)まで国会議員を務めたそうです。当時のヤクザというのは任侠(にんきょう)とも呼ばれ現在のように麻薬を売りさばいて資金を集めたり、暴力団といったイメージのヤクザとは違って地域のイザコザや揉め事を治めたりするものすごく頼れる人、という感じの存在だったようです。こういったヤクザの大親分というのが日本各地にいたそうです。

ヤクザのことを古くは任侠者と呼んだ。任侠とは、仁義を重んじ、困窮する他者のために進んで身体を投げ出せる精神のことをいう。地域のボスは、任侠の精神を持つ者が少なくなかった。そして中には、磯吉のように国政の場で活躍する者もいたのである。

本書:P16

もちろんヤクザである以上、その権力や権威の背景には暴力があるのは当時から変わらなかったようですが、いまのヤクザとは精神性が全く違うように思われます。

政界に進出したヤクザは磯吉の他にもたくさんおり、小泉純一郎元首相の祖父もヤクザの大親分で代議士になった人だそうです。

いまではヤクザと知り合いだというだけでタレント生命が終わってしまうような世の中ですが、それを考えると本当に別の国、と言っても良いくらいの違いですね。

タブーの違い

上のヤクザの代議士だけではなく、今ではタブーとされる多くのことが生活の中にあったようです。

たとえば売春というのも公娼制度といって国家が認めた者だけが行うという形で公然と行われていました(大抵は生活の苦しい家が娘を身売りさせていた)。戦後GHQが禁止したものの、昭和33年(1958年)までは赤線地帯として営業が続いていました。落語のネタにはこういった遊郭の様子を扱ったものが多いですが、良くも悪くも、今は無き日本の文化の一つだったのです。

よく言われることですが、戦前の日本ではモルヒネやヘロイン、ヒロポン(覚せい剤)などの薬物が薬局で買え、中毒患者をたくさん出していたそうです(太宰治などもその一人)。また、大陸からはアヘンが流入して、社会問題になったりもしていたのだそうです。

戦前の不良少年少女

戦前の少年少女はきっと真面目だっただろう、とか素朴だったんだろう、とついつい思ってしまいがちですが、必ずしもそうではなかったようです。多くの不良グループが発生し、大騒ぎをしたり窃盗などの悪事に手を染めていたそうで、「〇〇義団」「〇〇組」「〇〇倶楽部」などのグループ名を名乗り、また個人個人も「血達磨の〇〇」とか「血桜の〇〇」みたいな怖そうな名前を使っていたとか。こういうのを見ると、一昔前の渋谷のチーマーとか最近の半グレ集団とかそんなのとあまり変わってないなあ、という感じもします。

生身の人間の普通の生活

上に書いたほかにも本書の中では様々な生活の実態や社会のありようなどが紹介されており、普段はあまりリアルに感じられない我々の大先輩である戦前の日本人たちの姿を垣間見ることができます。

我々がいま生きているこの文脈は、当然のことながら敗戦とともに始まったわけではない、ということを改めて気づかせてくれますし、当時の日本人は貧しかったり理不尽なことが今よりも多かっただろうけれども、良くも悪くもおおらかな部分は今よりもたくさんあって、もしかしたら幸せだなあ、と感じることもきっと多かったんじゃないか、などと考えてみたりもしました。

ご興味があれば是非お手に取っていただければと思います。

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