『許せないという病』片田珠美 著 扶桑社新書

本の紹介

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本書は、精神科医であり、臨床の現場で実際に人間関係に悩んだ患者さんたちに多く接してこられた片田珠美さんが、誰かを「許せない」ということによって苦しんでいる人たちに対して、具体的にどのように考えたり行動したら良いかを様々な切り口で示してくれるものになっています。

著者自身の経験から

実は、片田さんご自身、実母や祖母との確執がずっとあり、彼らを「許せない」という思いを強く抱きながら生きてこられたそうです。彼女自身の経験から、家族なのに、家族だから余計に「許せない」という気持ちをどのようにすればよいのか、そういった経験を振り返りながら書かれたそうです。

僕自身のことを考えても、許せないと思ったり、誰かに怒りを感じたことはたくさんありましたし、周囲の人にどうやら「許せない」と思われているらしいぞ、とか怒りを感じられているなあ、と感じることもあります。とくに若いころの恋愛を通じてそういうことはよくあった(笑)ように思います。ここ数年を振り返っても、職場でそういう感情を抱くことなどはいまだにありますが、若いころほどには多くないような気もしますが、それは僕が図々しくなってきて気づいていないだけなのかもしれません。

片田さんがある会社で講演した時に、パワハラ上司のことを話した時に、「そんな人がいるなんて信じられない」と驚いた人が実はそういうタイプの上司だったということがあったそうですが、謙虚に自分を見られる人でいたいものだと思いました。

「許せない」人は「喪の作業」ができない

「喪の作業」というのはフロイトが提唱した言葉だそうで、「愛する者」や「祖国、自由、理想などのような、愛する者の代わりになった抽象物」を失う「対象喪失」を克服していく過程のことを指すとのことです。片田さんは、誰かを「許せない」人は、この「喪の仕事」ができない人なのだと言います。

この「喪の作業」をうまく乗り越えていけないと人は鬱になったり自殺をしたりしてしまうのだそうです。これは昔よくあったアイドル歌手やアーティストの死に殉じてしまった人たちが当てはまると思いますし、この本では当時話題になった福山雅治の結婚で「ましゃロス」をして「許せない」と思った人たちのことも例に挙げられています(著者自身も「ましゃロス」だったそうです)。

面白いな、と思ったのは、「喪の仕事」のプロセスを理解するためのモデルとして、臨死体験の研究などでも有名なキューブラー・ロスが提唱した「死の受容五段階説」を紹介している点です。「愛する者」やなにか大切なものを失うことは、「小さな死」と言っても良いのかもしれません。

(前略)末期患者は、

第一段階 否認

第二段階 怒り

第三段階 取り引き

第四段階 抑うつ

第五段階 受容

の五つの段階を経てようやく死という最大の「対象喪失」を受容する段階に到達する(後略)

本書:P81

ましゃロスで言えば、「結婚したなんて認めない!嘘だ!」というのが第一段階。

それが否定できない現実だとわかったとき、たとえば結婚相手に怒りを抱く、というのが第二段階。

何か良いこと=CDを買ったりコンサートに行ったりすることで、その報酬として現実を変えようとする試みが「取り引き」で第三段階。

それでも現実が変わらない、という事実を目の前にした時、抑うつ状態になるのが第四段階。

最終的にはその事実を静観して「受容」できるのが第五段階。

となっています。

ただ、死の受容と同様に(終末期に僕にこんな受容ができるのか、と今からかなり不安になります…)、「許せない」を無くすのは至難の業だと思います。 

「許せない」を無くすためには、まず、自分はそういった感情を抱いていることをしっかりと見つめることが大事なのだと言います。これは禅やマインドフルネスの教えにも通ずるところかもしれません。

ただただ感情にフタをするばかりでは、他のところでその感情がマグマのように噴き出すかもしれませんし、自分の体調不良や鬱になって出てくることもよくあるそうです。「良い人」ほどそうなってしまうようです。

「許せない」をしっかり見つめ、また、「許せない」対象から距離を置いたり、「許せない」自分を責めない、ということも大切なようです。

「許せない」のは悪いことばかりでもない?

片田さんの場合、結局は母や祖母に対する「許せない」はいまも消せていないそうです。ただ、その思いをこういった本を書く「物書き」として認められたいというプラスのパワーに変えて頑張って結果に結びついたとのことです。青色発光ダイオードを開発した中村修二さんも、怒りが開発のエネルギーになったと言われていたそうです。

生きている限り、「許せない」と思うことも思われることも避けては通れなさそうですが、なんとかうまいバランスを取りながら生きていきたいと思います。

是非、一度手に取っていただければと思います。

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