タイトルと著者を見た時、エッチな想像をした方いますか?・・・僕もそうでした(笑)。
実際はいたって真面目な、でも僕にとっては強く興味をひかれる内容でした。
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死とエロスの旅 [ 壇 蜜 ] 楽天市場
NHKの番組が元になった本
僕は見ていませんが、この本はNHK BSプレミアムの番組『壇蜜 死とエロスの旅』を基に書かれたものとのことです。(実際には”壇蜜さんを取材し、語りおろしとしてまとめた”と書いてありました。)
本の内容は、ネパール、メキシコ、タイの三ヵ国を旅する中で、宗教的な施設(寺院とか、葬儀の場面とか)などいろいろな場所へ行き、いろいろな人(僧侶や占い師や死にまつわる仕事をする人など)と話をする中で壇蜜さんが死について考える、というものです。
番組企画の打ち合わせ時に、壇蜜さんは「私は、人は死とどう向き合うべきなのか、興味があります」(本書:P7)と言ったそうです。彼女のテレビでの印象と随分違うな、と思ったものの、たしか彼女は葬儀屋さんで働いていた、という断片的な情報をどこかで聞いたことがあるのを思い出しました。なるほど、きっと死についてずっと考えてきた人なんだろう、と思いました。
壇蜜さんが葬儀屋で働いていた、という僕のボンヤリした記憶はちょっと間違いで、実際は、遺体衛生保全士=エンバーマーとして働いていたそうです(遺体をきれいにしたり一定期間腐敗しないように処理したりするお仕事)。また、解剖の助手をされていたこともあるそうです。
(そういえば、以前観たSix Feet Underというアメリカドラマがものすごく印象的で面白かったのですが、それは葬儀社を営む家族の物語で、このドラマでは主人公の兄弟がご遺体のエンバーミングをする様子がよく登場していました。)
『死』と『エロス』というのは両極端のようでいて、とても近しい概念のようにも思えます。カマキリが交尾のあとメスがオスが食べてしまうというのも何か想起させられました。また、ジョルジュ・バタイユというフランスの哲学者が、性行為を『小さな死』であると論じていたのを聞きかじったこともあります。考えてみれば性行為は生を生み出すものであるのに、生み出される命の陰では何億もの精子が命を与えられないわけですから、そういった意味でもエロスは『生』以上に『死』に近いとも思えます。
僕はずっと死ぬのが怖かった
僕は、とても臆病な人間で、小さなころからいつか死ぬのがものすごく怖かったです。自分の存在がいつか消え去って跡形もなく闇と虚無の中に飲み込まれていく。それに耐えられなかったし、今も本当はすごく怖いのです。これは僕のための本だ、と思いました(大げさ。(笑))。
この本を読みながら、僕もいろいろなことを考えました。
壇蜜さんが訪問した国々は、日本と比べると宗教が身近にあるということも相まって、『死』が身近にあるようです。日本では、肉親の死ですら、どこか生と完全に断絶したことのように思われるところがありますが、そこのグラデーションがもう少し曖昧だったり、完全に地続きなのかもしれません。
僕は、身近な人の葬式の後ですら、お清めの塩をかける、という日本の風習に昔から抵抗感があります。『その死』は穢れ(けがれ)などではなく、『その人の大切な死』なのだから、と言いたくなるのです…。死は穢れだとすることで、残された者の悲しみが早く癒える助けになる、と言うこともあるのかもしれませんが。
僕自身に、信仰すべき宗教があればどんなに楽だろう、と思うことがあります。その宗教が死後の世界や魂の不変、生まれ変わりを説いていたら、と。でも、僕にはそれがない。この歳になってから安易に何かの宗教にのめりこむこともおそらくないと思います。ただ、肉親や自分の死の瞬間にあって、宗教がどれだけ助けになるだろう(もちろん、死に伴う苦しみや悲しみは宗教の有無に関わらないはずですが)、と思い、経済的な豊かさを得た我々が失ったものの大きさを改めて思ったりもしました。
もし、僕に信仰があり、死を恐れることが無いとしたら、それはどんな保険に入るよりも安心なことだろうと思います。もし、大切な人や自分の死が次の生への入り口であったり、永遠への通過点であったとしたら! でも、きっとそれが宗教の無い(いや、無いわけではないのだけど)この国で生まれた僕の運命で、この国で生きる意味につながる何かなのかもしれないとも考えます。
この旅を通じて自分の死生観が根本的に変わったとは思わない。やはり死は絶対納得できないという自分がいて、訪れた国の人々のように死ぬことを恐れないで受け入れることはできていない。この時間が永遠に続くわけではないのは理解しているが、認められない何かがあるのだ。
本書:P242
壇蜜さんのこの言葉は、とても率直で、好感が持てるものでした。
僕もまた、死を恐れながら、でもいつかそれを受け入れられる強さ(それは、強さ、なのか?)を持てるように願いながら、生を輝かせることができたら、と思うのです。
旅行記としても
この本は、旅行の記録としてもとても面白く読めます。
各国の食事や町の様子、人々の考え方や文化の違いなどについても興味をそそられる話題がいろいろとありました。
なかなか海外に行けない時期ですから、そういった意味でもとても興味深いものでした。
この本にご興味もっていただいたら、是非お手に取っていただきたいと思います。
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