『天才と発達障害』岩波明 著 文藝春秋新書

本の紹介

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前に紹介した↓の本で、巻末の解説を書かれていた精神科医の岩波明先生が書かれた本です。

『ボクには世界がこう見えていた 統合失調症闘病記』小林和彦 著 新潮文庫 | 雨の星 探検記 (amenohoshi.com)

この本では、著名な科学者や文学者、芸術家などの天才について、その天才性や人生と発達障害や精神疾患との関係を考察しています。

マインドワンダリング~ADHDとの関連

心理学の概念で、マインドワンダリングという現象があるそうです。

これは、現在行っている課題や活動家ら注意がそれて、無関係な事柄についての思考が生起する現象のことをさす。

たとえば学校の授業中、ふと気がついたら「夕方どこに出かけようか?」と考えている。あるいは車を運転中、はるか昔の出来事について思い返す……こうした心理状態に陥ることは、誰でも心当たりがあるのではないだろうか。

本書:18P

このマインドワンダリングには、プラス面とマイナス面があり、プラス面としては創造性につながる、というものです。

マインドワンダリングの度合いがちょうど良ければ、型にはまらない新しい発見をしたり、芸術的に新しい表現につながったりします。

(ただ、マインドワンダリングの度合いが弱すぎても強すぎても創造性は発揮できない。)

マイナス面としては、マインドワンダリングそのものがマイナスの感情を引き起こして幸福感を減らしてしまうことが多いのだそうです。

ボンヤリ考え事をしていると過去の嫌な記憶が出てきてしまうことありますよね…。

マインドワンダリングには発達障害、とくにADHD(注意欠如多動性障害)や気分障害、強迫性障害などとの関連が強いそうです。

ADHDを持っている子供(大人も)は出来ない子、と思われてしまうことが多いと思いますが、天才と言われる人たちの中にはADHDを持っている人が多くいるそうです。

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野口英世などもその例に当てはまるそうです。

貧しい農家に生まれながら、幼少期から大変に優秀で独学で医師の国家試験に受かるほどの秀才、努力の人であった一方で、私生活で極端な浪費家で借金ばかり重ねていたそうです。

ただ、彼の研究や勉強への向き合い方は常軌を逸したほどの没頭ぶりで(睡眠時間もごくわずか)、米国での研究仲間からは「人間発電機」「24時間仕事男」などと言われたそうです。

過剰なまでの集中力、衝動的な浪費壁と生活力のなさは、英世のADHD的な特性を示唆するものである。日本が世界に誇る数々の医学研究の業績は、このような特性と関連が大きかったのである。

本書:P28

本書では、ADHDとの関連が高そうな著名人として、他にも粘菌研究の南方熊楠、モーツァルト、『トムソーヤの冒険』のマーク・トウェイン、黒柳徹子、水木しげるなどの生涯についても触れられています。

ASD(自閉症スペクトラム障害)との関連

発達障害というくくりの中では、 ASD(自閉症スペクトラム障害) という障害もあります。

ASDの人の特徴としては、他者とのコミュニケーションが苦手で空気が読めない、何か特定の物事に対して過度に没頭するなどがあるそうです。

ASDの人の中には得意な能力を持つ人々がいて、サヴァン症候群という名前で知られています。

サヴァン症候群でみられる天才的な能力は、特定の領域に限定されており、「音楽」「カレンダー計算」「数学」「美術」「機械的・空間的能力」のどれかであることが多い。

本書:P61

こうしたタイプの天才として、映画『レインマン』のダスティンホフマンが演じた自閉症の兄(これはフィクションですが)や、『裸の大将』の山下清、アインシュタインや「進化論」のダーウィンなども該当するようです。

面白いところではシャーロックホームズ(ASD的側面とADHD的側面が同居)と、その作者のコナンドイル自身にも同じようなASD的傾向が見られたとか。

うつや統合失調症との関連

本書ではほかにもうつや統合失調症との関連についても書かれています。

一般的には、統合失調症というのは、創造性と結びついていそうなイメージがあるかと思いますが、実際にはそこにはあまり関連性がないそうです。

アメリカの精神科医アンドレアセンが精神疾患と創造性の関連について研究を行ったところ、

対象となった作家の集団では、うつ病、躁うつ病などの「気分障害」の比率が極めて高かった。~中略~30人の作家において躁うつ病は43%、うつ病は37%であるのに対し、健常群においては躁うつ病が10%、うつ病は17%であった。また、作家においてはアルコール依存症の比率も高かった。けれども統合失調症は見られなかった。

本書:P116

うつや躁うつ病の例としては、チャーチル、ヘミングウェイ、テネシーウィリアムズ、夏目漱石などが挙げられています。

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作家にうつが多いのはなんとなくわかる気がします。

卑近でしょぼい例ですが、僕も大学生の頃季節性のうつ(秋~冬がつらかったです)みたいな症状に悩まされていて、その頃はなぜか毎日のように詩がたくさん浮かんだり、曲がたくさんできたりしました。

精神科にかかるほどではなかったので、うつ病とも言えないようなレベルだと思いますが、それでも本人は結構つらい思いの中にいました。

ただ、天才でも何でもない僕が一番創造的だったのは確かにあの頃だったなあ、と今思います。

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↑の研究で見られるように、統合失調症は意外に創造的な仕事をする人の中では少ないようです。

統合失調症においては、初期の段階では妄想に代表されるように世界の見方が独特で独創的な時期があるようですが、統合失調症自体が進行性のものなのでそういった段階が長続きしないのだそうです。

とはいえ、映画『ビューティフルマインド』のモデルになった数学者のナッシュや詩人の中原中也、作家のサリンジャーなど、統合失調症との関連が高そうな例はいろいろとあるようです。(ナッシュの場合はASDの可能性も示唆)

日本では天才が育ちにくい

最終章では、他国と比べて日本では同調圧力が強く、発達障害などを持った子供たちや、その中でも傑出した才能を持った子供たちについても、つぶされてしまうことが多いと書かれています。

同質性を求める傾向の大きい日本社会は、平均から外れた個人に対して不寛容となることが多い。これは傑出した才能には、必ずしも生きやすい環境とは言えないように思える。

~中略~

日本社会における子供の教育の問題は、深刻さを増している。学校という小さな閉鎖社会の許容度は、ますます狭いものとなっているからだ。これは発達障害の特性を持つ子供において、とくに顕著である。

本書:P222

その結果、日本の子供たちは自尊心や自己肯定感が他国に比べて著しく低いというデータもあるそうです。

発達障害ではない僕自身(そういう要素は多少ありそうですが)でも、若い頃は特に自己肯定感がとても低かったです。

別の記事でも触れたことがありますが、僕の息子も発達障害を持っており、このような社会の中で生きていく彼を思う時、親としては絶望的な気分になってしまうこともあります。

でも絶望している暇なんかなくて、まずはいちばん小さな社会である、家庭の中で彼の居場所を作ってやることが大事だと反省しています。

最後に

この本を読んで、天才というのはなんて生きにくい大変なものなんだろう、というのが一番の感想です。

(いろんな天才たちの生涯を知る、というだけの興味でも十分面白いです。)

日本以外の、同調圧力の比較的少ない国々でもそうなのだから、日本における天才たちの苦労はいかほどか、と思います。

そして、天才とも言われない(もしかしたら何かしらの才能があるかもしれないですが)一般の多くの発達障害や精神疾患を持った子供たち、大人たちもまた、特に日本では生きにくいのだと考えさせられました。

彼らにとって生きやすい、多様性を認め合える社会が、全ての人が生きやすい社会でもあるのだと思います。

僕はまず、自分の家族から、友人や周囲の人達との関りから変えていければ、と思いました。

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