止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記 (講談社+α文庫) Amazon
止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記 (講談社+α文庫) [ 松本 麗華 ] 楽天市場
本書は、オウム真理教の教祖であった麻原彰晃の三女で、かつてはアーチャリーというホーリーネームで知られた松本麗華さんが自身の半生をつづったものです。
彼女は、1983年4月生まれということなので、いま現在は38歳なのですね。
様々な元信者に関する本や元信者自身が書いた本が出ていますが、僕自身は麻原彰晃の肉親が書いたものははじめて読みました。
これまで読んだオウム関連の本
これまで、このブログでも紹介した『オウムからの帰還』(高橋英利 著)草思社文庫 | 雨の星 探検記 (amenohoshi.com)や、他にもいくつかのオウムに関する書籍を読んできました。
思い出してみると、
オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり [ 門田 隆将 ] 楽天市場
オウム真理教元幹部の手記 [ 富田隆 ] 楽天市場
日本社会がオウムを生んだ Amazon
「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔【電子書籍】[ 森 達也 ] 楽天市場
A2 [ 森達也 ] 楽天市場
などです。
森達也さんの書籍は、同名のドキュメンタリー映画にもなっており、若いころに見て刺激を受けました。
上記は出版されているものとしてはほんの一部ですが、高校生の頃にサリン事件があった世代の一員として、お門違いですが、何かゆるやかな関係者のような意識もあり、定期的に関連の本を読んでいます。
読めば読むほど藪の中
当然ながら、どの本を読んでも、その人それぞれの見方があり、ますますわからなくなる、という印象はあります。それぞれ違うので面白い、とも言えますが、ここまで見方が違うか、という感じがあります。教団の幹部だった人もいれば、先ほど挙げた高橋英利さんなどはインテリの部類ですが一般のサマナ(出家信者)に近い感覚ですし、村上春樹の本はサリンの被害者へのインタビューだったりします。
とにかく事件そのものも、教団そのものも巨大な怪物のように切り口がたくさんあり、迷宮のようです。
三女の立場からの手記
今回読んだ『止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』は、最初にも書いたように麻原彰晃の三女が書いたということで非常に新鮮でした。地下鉄サリン事件当時に11歳という年齢でありながら、肩書?としては正大師という有名な上祐史浩や村井秀夫と同格の地位にいたそうです。彼女の手記によれば、実態は小学校に通うこともできず一般的な学習レベルとは相当かけ離れた状態で、実際はほとんど権限もないような状態だったそうです。
ただ、このように実質的にはかりそめの地位だったにせよ、この地位によって、教団が解散した後にも警察に追われたり、社会からの差別、マスコミからのいわれのない追求、新教団で勝手に名前を使われたり、といったことにずっと苦しめ続けられているということです。
僕自身はオウム真理教の一連の事件によって直接的な被害を被っていませんが、事件そのものに対する怒りはあります。ただ、この本を読むまであまりリアルに考えたことのなかった、たまたま教祖の子供に生まれてしまった人の手記には考えさせられることが多くありました。
本書には、父親としての麻原彰晃の姿や、教団内部での指揮命令系統の曖昧さ(教祖の名前で間接的に幹部が自分の都合の良いように命令を出したり)や、母親やほかの家族と著者の関係、警察やマスコミに対する不信感なども語られています。だからといって、結果的に起こされた事件の数々を肯定することはもちろんできない。でも、その裏には個人の責任だけに集約しきれない様々な事象があった。といった可能性については考えさせられます。自分がもし、この教祖の子供だったとしたら。そんなことも思いました。
著者自身は中学や高校、大学などへ入学を試みるたびに入学取り消しなど様々な試練に合います。一面から見れば、教祖の娘がそんな人並みのことを望むことなど問題外だ、と言われる人がいるのも理解できます。しかしでは、この人は、この人たちはどのように生きていけば良いのか?とも思います。
警察による法律を無視した取り調べや不当な裁判の進みゆきなどについても語られます。悪いことをしたのだから法律など無視して裁けばよいという考えもわかります。特に自分や肉親が被害者ならなおさらです。でも、そんな態度は結局真実を明らかにするという結末には導かれない(導かれなかった)と思います。よく、韓国が法治国家ではなく情治国家である、と言われますし、その通りだとも思いますが、日本にも認めたくないですがそのような部分が多分にあるだろうと思いました。
オウムにまつわる多くの本と同様に、この本も「藪の中」の多くの証言の中の一つではあります、全ての証言が正しいか正しくないのか、僕にはわかりませんが、少なくともいままであまり思い至らなかった新しい視点を与えてくれるものでした。
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