『チベット 祈りの色相、暮らしの色彩』渡辺一枝 新日本出版社

本の紹介

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少し前に読んだ椎名誠の本で椎名さんの奥さんである渡辺一技さんも作家であることを知って、この本を手に取りました。

『ぼくがいま、死について思うこと』椎名誠 新潮文庫 | 雨の星 探検記 (amenohoshi.com)

この本は渡辺さん自身の撮影した美しい写真の数々と、チベットの人々の暮らしに関する文章で構成されています。

あだ名がチベット

1945年に旧満州のハルピンで生まれた渡辺さんは、1歳半で日本に引き揚げを経験しているそうです。

幼い頃に大人たちの会話に出てきた「蒙古」「チベット」「馬賊」の言葉がなぜか心に強く残り、「チベットに行きたい」と言っていたために渡辺さんのあだ名は「チベット」になったとか。

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椎名さんと結婚してからも渡辺さんはずっと保育士をされていたそうですが、1987年というから42歳の時に保育士をやめ、退職の翌日にチベットへはじめての旅行に行かれたそうです。

こんなにも長い間、人は願いを持ちつづけ、そしてそれを叶えることができるのだ、という事実に僕は感動を覚えました。

それができる環境があったのだろうし、家族の理解などもあったのでしょうが、ご本人の想いがよほど強かったのだと思います。

(いや、しかし家族の理解もやっぱりすごいな…。)

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そういえば、中学の頃に父親に連れていってもらった椎名誠の講演会で、

「うちの奥さんはモンゴルやチベットで馬に乗って旅をしていますよ」

みたいなことを言っていたのを思い出しました。

当時はなんとなく面白い話をしているな、程度にしか思っていなかったのですが、本当にこんなに旅ばかりしている奥さんだったのか~、と思いいたりました。

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初めてのチベット旅行は高野山のお坊さんたちとお寺をめぐる旅だったそうです。

初めてのチベット行を前にして私は、「行けばなぜこんなに惹かれてきたか、その理由がわかるに違いない」と心弾ませた。だがお寺巡りは全く心弾まず、けれどもチベット人たちとのふれあいがとても楽しかった。「この人たちと一緒にいると、なぜこんなに心安らいでいられるのだろう。その訳を知るために通おう」と思った。以来通い続けている。

本書:P87

生まれ変わりを信じるチベット、ということもありますが、こんな話を聞くと(読むと)きっと前世はチベットの人だったんだろうなあ、と安易に考えてしまいました。

生き生きとしたチベットの人達の笑顔

この本の大きな魅力の一つは、写真に写っている人たちの笑顔の美しさです。

男の子も女の子も、男も女も、おじいちゃんもおばあちゃんも皆、リアルに生きている!という感じがします。

「リアルに」と書きましたが、それは日本にも遠い昔あったものかもしれません。

貧しさは人をリアルに生きさせる要因の一つとも思います。

僕は既に物質的には豊かな世界に生れ落ちているのでその世界には戻れないですが。

他にはきっと、チベットの人達が生活と分かちがたく信仰するチベット密教があるのだとも思います。

生まれ変わりを強く信じる彼らの目には迷いが無いように見えます。

その点には強く憧れます。

失われていくもの

30数年チベットに通っている渡辺さんが本の中でも触れているように、チベットの近代化や中国政府による様々な介入を経て、どんどん変わってきているそうです。

何事も変わり続けることが世の常ですが、失われていくもの(それが素晴らしいものであればあるほど)を目にすることはつらいだろうな、と思わされます。

チベットの中国による弾圧の問題は新疆ウィグル自治区の問題と並んで広く知られるべきだと思います。

特に人権派を自認するメディアや活動家にもこういう時こそ動いて欲しい。

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本書を読んで、渡辺さんの他の書籍にも触れたいと思いました。

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