『乱読のセレンディピティ』(外山滋比古 著)

本の紹介

少し前に読んだ『老いの整理学』(外山滋比古 著) | 雨の星 探検記 (amenohoshi.com)の外山滋比古さんの別の著書。

いかに「読書」をするべきか、ということと、自身の英語や文学の勉強歴、英語雑誌の編集をしていた時の経験などを重ねながら、「乱読」がどのように面白いアイデアをもたらしたり、思い付きを与えてくれるか、といった話を興味深く語ってくれています。

セレンディピティという言葉、最近たまに聞きますが、もともとは主に科学の分野で使われる用語で、失敗が思わぬ大発見につながる、ということを表すそうです。例として、イギリスの生物学者であるフレミングがブドウ球菌を培養中に誤ってアオカビが混入してしまったが、その周りではブドウ球菌が繁殖しなかったことによりアオカビの中に抗菌作用のある物質=ペニシリンが含まれていることを発見した、ということが書かれています。(僕もなんとなく聞いたことありました。)

この本では、様々なジャンルの本を、幅広く読むこと=乱読を勧めています。そうすることによって思わぬ発想=セレンディピティを得ることが可能である!と。

結局、やみくもに手当たり次第、これはと思わないようなものを買ってくる。そうして、軽い好奇心につられて読む。乱読である。本の少ない昔は考えにくいことだが、本があふれるいまの時代、もっとも面白い読書法は乱読である。

本書:P23

僕自身は、放っておくとフィクションばかり読んでしまうので、外山さんが指摘する偏った読書法になりがちです。昔は実用書のたぐいは全然読まなかったので、最近はかえってそういうものを意識して読むようにしています。

知識と思考

本書では、本を読みすぎたり、同じ本を何度も読んだり、同じジャンルのものばかり読むことの弊害についても書かれています。

本についても、過食は有害である。知的メタボリックになる読書があり得る。同じ本を何回も読むなどということは、考えただけでも不健康である。偏食も過食と同じくらいよろしくない。勉強だといって専門の本を読みすぎると知的病人になりがちである。専門バカはそのひとつである。

本書:P51

外山さんは、読書をし過ぎて、知識を蓄えるだけでは思考が働かなくなる、と言います。

頭が知識でいっぱいになれば、頭がはたらこうにも、はたらくどころではない。そのうちに、ものが見えない頭の近視がはじまる。

本書:P57

本当にものを考える人は、いずれ、知識と思考が二者択一の関係になることを知る。つまり、物知りは考えず、思考をするものは知識に弱い、ということに思い至るだろう。

本書:P58

これはなんとなくそんなものなのかな、と思わされる指摘ではあります。人に寄るかと思いますが、中小企業の経営者(僕が勤めている会社の社長)とかはそんなに本は読んでいなさそうでも、経験に基づく思考がものすごく深いなあ、と思うことがあります。(本当はものすごく読んでいるかもしれませんが)

ただ、外山さん自身、ものすごくたくさん本を読みながら、ものすごく思考もする、という人なのでどこまで鵜呑みにしてよいか…と思ったりもします。

乱読のセレンディピティ

積極的な乱読は、従来の読書ではまれにしか見られなかったセレンディピティがかなり多くおこるのではないか。それがこの本の考えである。

本書:P115

一例として、外山さんは若いころ、『英語青年』という雑誌の編集をまかされたものの、部数がどんどん落ち込んで困っていた時に、全然関係のない料理の本を読んでいた経験からセレンディピティがあって売り上げを立て直すきっかけを得たそうです。雑誌の編集も料理人と同じように一見全然違う対照的な素材、内容を組み合わせることによって、美味しい(読者にアピールする)雑誌を作ることができると言った形で。

そういえば、作詞家の松本隆さんといえば時には少女のような視点で美しい詩の世界を作り上げることで知られていますが、学生の頃には友達と競ってとにかく乱読に励んだ、といったことを聞いたことがあります。彼の創作の泉には乱読で獲得した膨大なものが溶け込んでいるだと思います。詩を書きたいからと言って詩ばかり読んでいてはダメなんだなあ、と思わされます。

何かの分野を研究されているような方々は、もちろんその分野のものはたくさん読む必要があるのだろうと思いますが、何かの専門家というわけでもない僕であれば、なおさら、いろいろなジャンルの本に触れていきたいな、と思いました。

この本には他にもいろいろなヒントが書かれています。ご興味あれば是非手に取ってみてください。

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