『日本奥地紀行』イザベラ・バード著 高梨健吉 訳 平凡社ライブラリー その3 粕壁(現在の春日部)~日光へ

本の紹介

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イザベラ・バードというイギリス生まれの女性旅行家が143年前に日本の東北地方や北海道を旅した記録『日本奥地紀行』をすこしずつ読んでいます。

第6信 粕壁(春日部)へ

バードは東北、北海道への旅に出ます。

飛行機も電車も無い時代ですから、人力車や馬での旅行です。

まずは日光を目指しますが、そこまでは人力車で3日間と書かれていました。

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旅の荷物はバードが110ポンド(50キロくらい)、伊藤が90ポンド(40キロくらい)とあります。

この重さは馬がやっと1頭で運べるほどだそうです。

バードの荷物には折り畳みのイスや、ゴム製の浴槽、人力車に乗る時のための空気枕、2分間で組み立てられる寝台(蚤の被害を避けるため)、などが入っています。その他には日本大地図やアーネストサトウの英和辞典など。

食べ物は少量のリービッヒ肉エキス、四ポンドの葡萄酒、少しのチョコレート、ブランデーなど。

リービッヒ肉エキスは、ドイツ人の科学者リービッヒが開発した滋養に良い肉エキスだそうです。100年前の料理本を訳してみます4|tomoko_morimoto|note 32キロの牛肉から1キロしか取れないという当時大変な高級品だったのでしょうね。

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日光への90マイル(145キロくらい)旅は、3台の人力車で行きます。三日間で行く、とあるので一日50キロの移動ができたのですね。

初日には東京の公使館から粕壁(いまの埼玉県春日部)まで行きます。

車夫たちの様子が描かれています。

これらの車夫たちは、青い木綿の短い股引をはき、帯に煙草入れと煙管をさしこみ、袖の広いシャツは青い木綿で短く、胸のところを開けており、腰まで達していた。青い木綿の手拭いを頭のまわりに縛り付けていた。(中略)上着は、いつもひらひらと後ろに流れ、竜や魚が念入りに入れ墨されている背中や胸をあらわに見せていた。入れ墨は最近禁止されたのであるが、装飾として好まれたばかりでなく、破れやすい着物の代用品でもあった。

本書:P70

藍色の木綿が多用されていたのですね。この当時は藍色は庶民の色だったのかな、と思います。現代はいろんな色の選択肢があるのに、藍色ばかり選んでしまう僕にはこういう昔の日本人のDNAが刻まれているのかも、なんて思いました。

現代では入れ墨はやっぱりヤクザとかのイメージが刷り込まれており、僕自身もそれに影響されているのか、僕自身も自分で入れたいとは思いませんが、この当時はかなり一般的に受け入れられていたファッションだったのですね。

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江戸の外れのあたりの茶屋が並んだあたりの描写で、こんなのがありました。

こんなことを書いてよいものかどうか分からないが、家々はみすぼらしく貧弱で、ごみごみして汚いものが多かった。悪臭が漂い、人々は醜く、汚らしく貧しい姿であったが、何かみな仕事にはげんでいた。

本書:P72

ためらいながらも、歯に衣着せない感じですが、きっとその通りであったのだと思われます。もしもこの時代の日本にタイムスリップして同じような旅をするとしたら、僕にとっても衛生状態や悪臭は大きな障害になるような気がします。現代に生きている我々は潔癖になりすぎていますよね…。(また無駄な心配)

でも、「何かみな仕事にはげんでいた」、というのは胸がちょっと熱くなるような描写ですね。誰もかれもが貧しくも一生懸命働いてくれたその先に僕たちの命は繋がれているのですから。

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バードの日本食への印象はあまり良いとは言えないようです。

車夫たちは足を洗い、口をゆすぎ、ご飯、漬物、塩魚、そして「ぞっとするほどいやなもののスープ」(味噌汁)の食事をとった。

本書:P76

とありますし、そういえば第4信にも

「日本食」というのはぞっとするような魚と野菜の料理で、少数の人だけがこれを呑みこんで消化できるのである。これも長く練習をつまなければできない。

本書:P50

これには少し反論したくもなりますが、当時の庶民が食べていた「日本食」を僕も食べたことが無いわけですから本当のところはわかりません。でもきっと現代の我々の味覚は既にバードの方に近いのかもしれません。

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粕壁に着くと、バードたちは大きな宿屋に泊まりますが、ひどい悪臭や蚤や蚊、また無遠慮な客たちに部屋を覗かれたり、三味線や太鼓、拍子木の音などに悩まされる様子が書かれています。同行している伊藤でさえも「ひどい悪臭だ」と言うほどなのできっとかなり臭いのでしょう。

第6信(続き)栃木

翌朝宿を出ると車夫の具合が悪くなります。

最初の休憩所で私の車夫は《親切でやさしい男だが見るも恐ろしい》痛みと吐き気に襲われた。粕壁で悪い水を飲んだためだという。

本書:P83

いやいや、「見るも恐ろしい」って!そして粕壁の水、やはり相当ヤバかったのね…。

この日は栃木に泊まりますが、粕壁と同様にかなり劣悪な状態だったようです。

次の日、一行は日光に着きます。ここで人力車の旅はおしまいになり、ここからは馬で行くことになります。

ここで、車夫たちとはお別れになります。

ここで残念ながら、今まで私に親切で忠実に仕えてくれた車夫たちと別れることになった。彼らは私に、細々と多くの世話をしてくれたのであった。いつも私の衣服から塵をたたいてとってくれたり、私の空気枕をふくらましてくれたり、私に花をもってきてくれたり、あるいは山を歩いて登るときには、いつも感謝したものだった。そしてちょうど今、彼らは山に遊びに行ってきて、つつじの枝を持って帰り、私にさようならを言うためにやってきたところである。

本書:P95

醜いとか見るも恐ろしいと言いながら、すっかり情がうつって、別れがさみしくなっている様子にちょっとキュンとします。この人力車の車夫たち、入れ墨がゴリゴリに入っているのに、花を摘んできてバードにあげたり、なんて細やかな優しい心を持っていたんでしょうか。

次からは日光の様子が描かれます。

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