日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー329) Amazon
イザベラ・バードというイギリス生まれの女性旅行家が143年前に日本の東北地方や北海道を旅した記録『日本奥地紀行』をすこしずつ読んでいます。
今日のパートでは、千や2千の群衆にとり囲まれたりする様子(まさに”バード”ウォッチング!)や、食べ物に関する記述、日本人に対する考察などを面白く読みました。
第13信 車峠にて
馬に乗ったバード一行は市川を出て、高田という「絹や縄や人参の相当大きな取引きをしている大きな町(P168)」に着きます。ここは現在の会津美里町だそうです。会津美里町公式サイト (town.aizumisato.fukushima.jp)
町の概観はみすぼらしく、わびしい。外国人がほとんど訪れることもないこの地方では、街はずれで初めて人に出会うと、その男は必ず町の中に駆けもどり、「外国人が来た!」と大声で叫ぶ。すると間もなく、老人も若者も、着物を着たものも裸の者も、目の見えない人までも集まってくる。
本書:P168
休憩のために宿屋についても、人々は家の屋根に上って庭園に面したバードの泊まっている部屋を覗こうとしたり、子どもたちが柵を壊してしまい、どっと庭園に人々がなだれ込んで来たり、旅券を確認に来た警官5人がバードの部屋にずかずかと入り込んで来たりと散々な様子です。また、宿を出ると千人もの人たちが集まっていた、と書かれています。
次の坂下(ばんげ)では、実に2千人を下らない人々が集まっていた、とあります。
人々の好奇の目にさらされながらも、バードの日本人に対する見方は必ずしも悪くはなさそうです。
ヨーロッパの多くの国々や、わがイギリスでも地方によっては、外国の服装をした女性の一人旅は、実際の危害を受けるまではゆかなくとも、無礼や侮辱の仕打ちにあったり、お金をゆすりとられるのであるが、ここでは私は、一度も失礼な目にあったこともなければ、真に過当な料金をとられた例も無い。群衆にとり囲まれても、失礼なことをされたことはない。
本書:P171
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バード一行は野尻という村まで来ますが、そこから見えた車峠という山の上まで行って宿を取ります。
この峠には宿屋の他には2軒しか家が無いので、群衆にとり囲まれることもありません。
ここでは、宿の女主人と伊藤がバードに、2日前にこの峠の麓の野尻で貧乏で大家族を養えずに首をくくってしまった老人のことを語って聞かせたという話が印象的でした。
当時は生命保険などもないでしょうから、亡くなったところで残された家族はどうなってしまうのだろう?などとも思いました。
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この本の中で当時の食べ物についての記述を読むのは楽しみの一つであるのですが、車峠の宿で旅人たちに振舞われる食事について書かれていました。
黒くどろどろした貝類の佃煮、串刺しの干した鱒、海鼠(ナマコ)の佃煮、根菜類のみそ和え、緑色をした海苔のせんべい―――いずれも味の悪い不快な食物である。
本書:P176
バッサリ(笑)。僕としては結構おいしそうなのでは?と思ったのですが、バードの口には合わなかったのでしょう。もしくは日本人が食べても美味しくないものだったのか…。タイムスリップできたら確かめたいものです。
第14信 津川にて
車峠を出ると、バードたちは苦労しながら進んで津川という場所まで行くのですが、途中の宝沢(ほうざわ)や栄山(さかえやま)という村の厳しい様子が書かれています。
この地方の村落の汚さは、最低のどん底に到達しているという感じを受ける。(中略)大人は虫で刺されたための炎症で、子どもたちは皮膚病で、身体中がただれている。(中略)彼らの風采や、彼らの生活習慣に慎みの欠けていることは、実にぞっとするほどである。慎みに欠けているといえば、私がかつて一緒に暮らしたことのある数種の野蛮人と比較すると、非常に見劣りがする。
本書:P179
また、日本人一般についてこんな考察もしています。
彼らは礼儀正しく、やさしくて勤勉で、ひどい罪悪を犯すようなことは全くない。しかし、私が日本人と話をかわしたり、いろいろ多くのものを見た結果として、彼らの基本道徳の水準は非常に低いものであり、生活は誠実でもなければ清純でもない、と判断せざるをえない。
本書:P180
と手厳しいです。
バードの価値観は当時のイギリス人のキリスト教的な道徳に基づいているので、当然ながら日本の習俗や文化や考え方の中にそういったバードの持っていた道徳にそぐわない部分はたくさん違和感として見えたのだろうなあ、と思われます。
津川で泊まった宿の主人はもとは武士であって興味深い話をしたことや、「宿で生鮭の切身が一つ出たが、こんなにおいしいものは今まで味わったことがないと思う。(P182)」などとも書かれています。
第15信
津川の宿を出たバードらは、津川という川を舟で下って新潟に出ます。
この川下りは、ヨーロッパのライン川にも勝るとも劣らない美しさであると書かれています。
この暑くて静かな午後には、船頭と私のほかはだれも眼を開けてはいない。心地よく眠気をさそう船旅であった。
本書:P186
こんな穏やかな午後のひと時を僕も味わってみたいものだ、と思わされます。
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