『沈黙――雑音まみれの世界の中の静寂のちから』ティク・ナット・ハン 著 池田久代 訳 春秋社

本の紹介

タイトルだけだと何の本だかわからないですが、ベトナム出身の禅僧であり平和・人権運動家のティク・ナット・ハン師による、マインドフルネスへの入門書のようなものです。

沈黙: 雑音まみれの世界のなかの静寂のちから Amazon

沈黙 雑音まみれの世界のなかの静寂のちから [ ティク・ナット・ハン ] 楽天市場

ティク・ナット・ハン

僕は全く存じ上げなかったのですが、ティク・ナット・ハンは、ダライ・ラマと並んで世界中で影響力のある大変偉いお坊さんなのだそうです。1926年ベトナムに生まれ、1966年にベトナム戦争終結を求める平和運動を行ったことがきっかけでベトナムを追われ、以来40年にわたりフランスでの亡命生活を送られていたそうです。大病を経験されて現在は故郷のベトナムに帰られて静かに暮らされているとのこと。

第二次世界大戦、第一次インドシナ戦争(1946-54旧宗主国であるフランスからの独立をめぐる戦争)、ベトナム戦争(1960-75)など、激動の時代を生きた方だからこその説得力のある言葉がこの本には満ちています。

マインドフルネス

この本は、何か特定の宗教(ティク・ナット・ハンの帰依する仏教であるとか)に勧誘するようなものではなく、ただ、心を静かに自分を見つめ、マインドフルネスを実践することで自分自身や家族やコミュニティの幸せにつながっていくのだ、と説いています。

マインドフルネスというのは、最近耳にすることが増えてきましたが、「いまこの瞬間」に集中して瞑想などをすることによって「未来」や「過去」にとらわれない時間を確保して心の平安を見出し、集中力を高めたり幸せを感じたりすることを目指すことだと理解しています。

Googleなどの大企業が社員研修に導入しているという文脈で聞かれたことがある方も多いかもしれません。

Googleが社員研修に導入する「マインドフルネス」とは?専門家がビジネスに効果的な理由を解説! | サーブコープブログ (servcorp.co.jp)

こういった企業が実践するマインドフルネスはどちらかと言えば社員のストレスを減らして、ひいては業績をアップしていきたいという思惑もありそうですが、この本はやはり宗教家が提唱するものだけあって、もっと根源的な幸せとはなにか?といった大きなゴールを目指しているように思います。

沈黙を求めて

この本では繰り返し、沈黙の重要性が語られます。

世界は不思議に満ちているというのに、人はいつもしあわせ探しに奔走しています。今ここに生きて、この大地のうえを歩くことが奇跡です。それなのに、人はもっともっとと、何かを求めて走り回ります。毎日、美しい世界が片時も離れずに私たちに呼びかけているのに、その声に耳を傾けないのです。

美しいものの呼び声に耳を澄まし、それに応えるためには、沈黙が必要です。心の中に静寂が無ければ、心と体が騒音で満ちていたら、美しいものの呼び声は聞こえません。

本書 はじめに:P5

著者は人間のアタマの中で絶えず鳴り続ける心の声をNST(ノン・ストップ・シンキングNon Stop Thinking)というラジオ局である、と面白い表現をしています。沈黙を得るために、マインドフルネスによってそのラジオ局をオフにしてみよう!と。

僕も実践してみます

以前 ヨガについて | 雨の星 探検記 (amenohoshi.com) にも書いた通り、以前自分で試してみようとしたことはあるのですが、やり方が悪かったのかあまりしっくり来ないというか、できてる感が少なく、マインドフルネス単体で実践するのは僕には難しそうだ、と思ったことがありました。この本で書かれているように、いざマインドフルネスをしようとすると、上に書いたNTSラジオ局がアタマの中で鳴りやまないのです!

そんな僕ですが、ヨガを通じて同じように今ここ、に集中することが少しできてきたかな、とは思っています。

この本を読んでまたマインドフルネスを実践してみたいな、と思ってきました。

この本では、マインドフルネスというのはよく言われるような瞑想だけで実践できるものではなく、歩いている時でも、ご飯を食べる時にでも、お茶碗を洗っている時にでも、いつでもできるものなのだと書かれています。今日のお昼に定食を食べた時、試しに耳栓を付けて、スマホも見ないで、ご飯を食べることだけに集中してみました。他のことをしながらとか考えながらだと、どうしても食事への注意は散漫になりますが、やはりそれだけに集中するというのはとても良いものだと思いました。(考えてみれば、孤独のグルメというマンガ、テレビドラマがありますが、あれはマインドフルネスそのものじゃないか!と思われます。ずっと自分の中で目の前のご飯について独白を続けているというのは、他の何物にもとらわれずに本来の自分と向き合うということに他ならないように思います。)もちろん、思考は食事以外のことを絶えず考えよう、考えようといろんな手を使って仕掛けてきますが、そのたびごとに目の前のお魚や野菜に注意を戻していく、ということを少しできた気がします。

実践にあたって

この本には、たくさんの偈(げ)・ガーター(マインドフルネスを助けるガイドになる言葉)が紹介されています。こういったものの助けを借りて自分なりに試してみようかと思います。

息を吸いながら、いま息を吸っていると気づく
息を吐きながら、いま息を吐いているときづく(吸う/吐く)

息を吸いながら、息が深くなる
息を吐きながら、息がゆっくりとなる(深く/ゆっくり)

息を吸いながら、体に気づく
息を吐きながら、体を鎮める(体に気づき/鎮める)

息を吸いながら、微笑む
息を吐きながら、手放す(微笑み/手放す)

息を吸いながら、今ここに安住する
息を吐きながら、今この瞬間を楽しむ(今ここ/楽しむ)

本書:P45

******

この本は、他にも著者の人生折々の思い出話や、圧政に対する抗議のための焼身行為(焼身供養)をした仲間の僧侶のこと(本の中では自殺とは全く違う種類のことと書かれています。決して一般の人にそれを推奨しているわけではないです。)など衝撃的な話もあったりしますが、人生をより良く生きようとしたときのヒントになりそうな知恵がたくさん書かれていました。

もしよかったら一度お手に取っていただければ幸いです。

沈黙: 雑音まみれの世界のなかの静寂のちから Amazon

沈黙 雑音まみれの世界のなかの静寂のちから [ ティク・ナット・ハン ] 楽天市場

コメント

タイトルとURLをコピーしました